腰椎側湾症とは、腰椎が前から見た時に、左右に傾いたり、S字状に変形したりしている状態のことを指します。脊椎の側湾症には、思春期に発生するものと、高齢になって脊椎の変性によって発生するものの2種類がありますが、本日の記事では、後者について述べます。腰椎側湾症という病気があります。本記事では、以下の内容で、この病気について解説します。

  1. 腰椎側湾症と椎間孔狭窄症の関係
  2. 腰椎側湾症の治療
  3. 椎間孔開放術の問題点
  4. 現状と今後の展望

腰椎側湾症椎間孔狭窄症の関係

腰椎に側湾があると、脊椎骨が、右か左に傾く部分があるので、その部位で、傾いた側の椎間孔が狭くなります。このため、椎間孔狭窄症を合併することが多くなります。おそらく、腰椎の側湾によって症状が起きる場合の大部分は、椎間孔の狭窄による症状であろうと思われます。

腰椎側湾症の診断と治療

従って、症状を出している椎間孔を正確に同定して、その部分の椎間孔を手術で拡げてやることができれば、症状は改善すると考えられます。これが、私達が行ってきた椎間孔開放術という手術です。

一方で、単純な考え方で、曲がった骨を真っ直ぐにしてやれば、椎間孔の狭窄も広がって、症状も良くなるという考え方も、当然あります。実際、この考えに基づいて手術をされる先生も多いのです。

しかしながら、この方法には問題があります。背骨を真っ直ぐにすると行っても、そのためには、固定をする必要があります。スクリューなどの金属を使って、固定をするわけですが、多くの場合に、かなり長い区間を固定する必要があり、手術の侵襲が大きくなります。手術の際の合併症のリスクも、かなり高くなるでしょう。また、長い区間を固定すると、隣接椎間病変の問題も、当然大きくなります。長期的に見た場合の問題はかなりあると考えざるを得ません。

腰椎椎間孔開放術の問題点

どちらの方法がよいのかは、まだ結論が出てはいません。私達としては、低侵襲な椎間孔開放術をお勧めしますが、この方法に問題点がないわけではありません。

まず、第一に、側湾症があると、椎間孔開放の手術が、技術的に難しくなる、という点があります。ただでさえ、顕微鏡的椎間孔開放術は、正確で安全な技術と経験を必要とするのですが、そこに側湾が加わった場合、手術が更に困難になります。手術での骨削除の部分も、側湾症がない症例に比べて、拡げる必要もあるでしょう。

次に、椎間孔開放術を、側湾症の症例に行った場合の長期成績が、まだはっきりしないという点です。腰椎側湾症は、年齢が進むに連れて少しずつ進行する可能性があり、椎間孔を開放しても、しばらくすると、側湾が進行してまた狭窄が起きるかもしれません。

現在の私達の状況と、今後の展望

腰椎側湾症の治療は、なかなか困難ですが、私達は、10年以上前から、この疾患に対して、椎間孔開放術を行ってきました。最近、その成績を論文にまとめて発表したところです(参考文献1)。この結果を一言で言うと、椎間孔開放術は、側湾症のある例でも、一定の効果が得られるが、側湾症のない例に比べると、若干劣る、というものです。

この、劣る原因がなにか、という点が、まだはっきりとしないのですが、私達は、手術の技術的問題ではないかと考えています。そうであれば、顕微鏡手術の術式を更に改善することで、この疾患に対する手術成績を、もっと向上できる可能性があります。実際に、最近の症例では、いくつかの工夫の結果、以前より成績が良くなっているという実感があります。今後、術式を改良する努力を更に続けていきたいと思っています。

結論

腰椎側湾症に対しても、多くの症例では、椎間孔開放術で症状を改善することができます。側湾症のない例に比べると成績が少し劣るのですが、リスクの高い固定術を行うよりは、特にご高齢の方に対しては、良い方法だと考えています。

参考文献

Chang HS, Baba T, Matsumae M, Long-term Outcomes after Microsurgical Decompression of Lumbar Foraminal Stenosis and Adverse Effects of Preoperative Scoliosis: A Prospective Cohort Study. Neurol Med Chir 2021. doi: 10.2176/nmc.oa.2021-0159